学生さんへ | 科目担当者は、2011年、2013年と2回にわたって長刀鉾の稚児の祖父役を務める機会を得た。そこで知った事実は、長刀鉾を維持管理する人々の熱い思い、献身的な奉仕、そして伝統の力であった。長刀鉾は山鉾巡行の先頭を巡行するくじ取らずの鉾であり、唯一生身の稚児が乗る鉾である。また、祗園祭最大の行事ともいうべき結界を解き放ち、山鉾が人間の領域から神の領域に入るというしめ縄切りの神事を行う鉾であり、いわば祗園祭の主役を演じる鉾でもある。このような長刀鉾の光の部分はよく知られ、書籍などで取り上げられているが、この祭りに非常に多くの役割を持つ人々が関わっていることはあまり注目されない。長刀鉾には4名の稚児係がおり、長刀鉾に関わるさまざまな行事を取り仕切っている。稚児が舞う太平の舞の伝授、しめ縄切りや拝礼の作法の指導から裏方の弁当の手配まで稚児係が行っている。最古参の青木氏は70年以上にわたり祗園祭に関わり、稚児係も30年を超す、いわば長刀鉾の生き字引である。青木氏から長刀鉾にかかわる様々な出来事や言い伝えなどを聞き、青木氏の知識・経験は、長刀鉾の伝承、強いては京都文化の伝承のために残しておかなくてはならないと考えたのがこのプロジェク卜科目に応募した一番大きな動機である。また、長刀鉾の運営には、長刀鉾保存協会の方々、囃子方、車方、屋根方、鉾蔵資材方、営繕係、化粧係、カメラマン等々、非常に多くの人が関与している。これに稚児家、禿家が加わる。例えば車方は、鉾の進行方向を変えるために車輪に楔を打ち込む。屋根方はもちろん車方も一歩タイミングを間違えると腕や足を失う危険をはらんでいる。囃子方は祗園囃子を数百年にわたって伝えてきている。こうした方々に焦点を当て、様々な話を聞き記録に残すことも大切なことではないかと思う。科目担当者は幸いにして、2回にわたって稚児の代理の祖父役として長刀鉾にかかわり、これらの方々と知り合いになることができた。そこで、こうした手弁当で奉仕をされている方々をも含めた記録を残すというのが第2の動機である。 |
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