2018年度クラスレポート
クラシック音楽のコンサートを創ろう!~アートマネジメントが抱える課題に挑戦~
Vol.1 2018.8.8
クラシック音楽業界の課題発見
当プロジェクトでは、クラシック音楽業界が抱える課題を発見し、その課題の解決策を考え、実証実験としてのコンサートを企画・運営します。企画・運営を通じ、設定した課題に対する解決策を提言することを最終目標としています。
春学期は、履修生間での意見交換やゲストスピーカーの講演、フィールドワークなどを通して、クラシック音楽が抱える問題にはどのようなものがあるのかについて考えました。クラシック音楽は難しいという印象を持たれやすく、それは親しみやすさに欠けることが原因ではないかという仮説を立てました。同時に、クラシック音楽のコンサートに大学生が少ないということを知り、私たちは「クラシック音楽の親しみにくさを克服」し、「大学生でも気軽にコンサートに行けるように」なってもらうことを目標に、コンサートを企画しました。
ニコ動風クラシック実況中継
課題をベースに企画したコンサートを7月12日に実施しました。このコンサートでは、ニコ動風リアルタイムコメントと実況解説という2本柱を設けました。
①ニコ動風
演奏中に観客の感想や意見を共有できれば、他ジャンルの音楽ライブのような盛り上がりや気軽さを演出できるのではないかと考え、ニコニコ動画風に演奏者の映像前面を来場者の投稿したコメントが流れていくという演出を考えました。
②実況解説
課題を設定する中で、作品に対する知識が無いことも、クラシック音楽を「難しい」と感じさせる原因ではないかという指摘がありました。このことを受けて、実際のコンサートでは、クラシックの知識があまりない人でも「楽しく聴くことができるようになる」きっかけとなるような解説のコメントを作成し、演奏者の背後に投影しました。
提言
①リアルタイム解説で難解な曲でも楽しめる
来場者の声から、リアルタイム解説の投影がコンサートの楽しさを増長することが明らかになりました。アンケートで解説についての設問を設けたところ、プログラム3曲中3曲とも、「楽しめた」という意見が100%でした。難解な現代曲を含むプログラムは、観客を退屈させるのではないかという懸念がありましたが、その難解さをも乗り越えて楽しめるという解説の効果が検証されました。
②リアルタイムコメントで意見共有を楽しめる
ツイッターを用いたリアルタイムコメントも好評でした。「ニコニコ動画風が面白そうだから」という動機での来場も複数あったため、集客時のインパクトもあると言えます。演奏者の方々も楽しめたと言ってくださいました。
③ツイッターの利用で学生が気軽に参加できる
アンケートの結果、来場者のほとんどがツイッターを日常的に利用していることがわかりました。当コンサートのような来場者参加型の企画では、ツイッターの使用によって積極的な参加を期待できるのではないでしょうか。
④ターゲットの興味に沿った会場設定
来場の動機として、同志社礼拝堂に入ってみたかったというものが複数ありました。会場設定においても、ターゲットの興味を考慮することが重要であるとわかりました。
反省と今後の活動
来場者の意見には好意的なものが多かったものの、一部否定的な意見もありました。とりわけ、「聴く」、「発信する」、「読む」の3つの作業を同時に行うのが困難であるとの指摘は複数ありました。他にもプロジェクトメンバー自身が認識した反省点を共有しました。秋学期にはこれらの反省を活かした企画を立て、より意義深い提言を目指します。
報告者:クラスレポート担当 中川湖夏さん(神学部4年次生)
Vol.2 2019.2.8
Ⅰ 当プロジェクトの活動目的
当プロジェクトの主な活動目的は、クラシック音楽業界が抱えうる課題を学生目線でアプローチし、最終的にクラシック音楽業界へ提言を行うことです。私たちは「大学生がクラシックコンサートに足を運ばない」ということがクラシック音楽業界の課題ではないかと考えました。そこで秋学期には同志社大生を対象としたクラシックコンサートを企画し、得られた結果を基にクラシック音楽業界に向けた提言書を作成しました。
Ⅱ 秋学期の活動内容
⑴「ニコ動風 クラシック実況中継~弦楽四重奏~」:コメント機能付きクラシックコンサートの開催
私たちは、春学期に引き続き、「ニコ動風」コンサートを企画しました。このコンサートは観客が生演奏に対する感想をTwitterに投稿し、その感想を「ニコニコ動画」のようにスクリーンに投影することによって観客の意見がリアルタイムで共有できることが特徴です。秋学期は以下の点を重点的にコンサートの運営にあたりました。
①コンサート本番に至るまでのプロセスを見せる
秋学期では、ターゲットとなる大学生の興味、関心を引き付けるために「コンサートがどのようにして出来上がっていくのか」というコンサート本番に至るまでのプロセスを開示する試みを行いました。当プロジェクトの履修生がコンサートに向けて企画会議する様子や、演奏者の方々との打ち合わせの様子を映像に収め、本番当日、演奏に先駆けて上映しました。このプロセス並びに上映した映像につきましては当プロジェクト公式Twitter、Youtubeにてご覧いただくことが出来ます。
URL:https://twitter.com/doshishaclassic
https://www.youtube.com/watch?v=GQhyVoJ5Ezo&feature=youtu.be
②コンサートを実施して
昨年12月21日、同志社礼拝堂で大阪フィルハーモニー交響楽団のメンバーによる弦楽四重奏の「ニコ動風」コンサートを実施しました。「クラシックコンサートで周りの意見がリアルタイムで見ることができる新鮮さが良かった」という声があった一方で「コメントが気になって肝心の音楽に集中できない」といった声もあり、賛否両論を呼ぶコンサートとなりました。演奏者からの評価は春学期同様、私たちが予想していた以上に高いものであり、自分たちのコンサートにも観客の意見が視覚化される「ニコ動風」コンサートの演出を取り入れてみたいという声が見られました。
⑵ クラシック音楽業界に向けた提言書の作成
このプロジェクトの最終目標は、本プロジェクトの受講生が設定した課題に対する解決策をクラシック音楽業界に提言することです。春学期・秋学期の結果と反省を基にして以下のような3つの提言へとたどり着きました。
①本格的なコンサートへの入り口としての「ニコ動風」
ニコ動風コンサートをきっかけに、クラシック音楽の多様な聴き方を知り、従来の本格的なコンサートでも自分の内側から湧き上がる「コメント」を愉しめるようになれると期待できる。
②クラシックコンサートの新しい形式としての「ニコ動風」
本格的なクラシックコンサートへの架け橋としてのみでなく、「ニコ動風」自体がクラシック音楽の新しい楽しみ方を提案している。
③ターゲットの需要や流行を的確に捉えた柔軟な企画の実施
「ニコニコ動画」のように一見クラシック音楽とミスマッチに思われるような要素でも、ターゲットの興味を惹きそうなものをコンサートに取り入れてみることで、膠着しがちなクラシック音楽の新しい可能性を拓く。
Ⅲ プロジェクト活動を終えて
私たちが実施した「ニコ動風」のコンサートは、非常にチャレンジングな試みでした。通常厳粛な雰囲気の中で進行されるクラシック音楽のコンサートに、画面上でのコミュニケーションを取り入れることが果たしてどのような効果を生み出すのか、当初私たちメンバー自身も期待と不安半分々々でした。既存のコンサートでも、画面上で一方通行の解説がなされたり、出演者のトークがあったりというコンサートはありますが、コンサート会場にいる不特定多数の人が「画面上で」しかも「リアルタイムで」コミュニケーションを図るということは、クラシック特有の厳粛な雰囲気を壊したり、音楽そのものに耳を傾けることを阻害したりする懸念からか、未だに実現していませんでした。
本プロジェクトでは、プロの方が「挑戦してみたいけれど二の足を踏んでいる」というような試みに挑戦できたと考えています。春・秋ともにコンサートの来場者を対象に行ったアンケートでは、賛否両論、興味深い御意見を多く頂戴しました。その貴重なご意見を踏まえた上で、この春には私たちからプロのクラシック音楽業界に向けてプロジェクトの報告を兼ねた提言書を発行いたします。私たちの挑戦を知って、プロのクラシック音楽業界の方々が少しでも「これは面白い!」と感じてくださり、さらに改良を重ね、プロのコンサートに応用してくださるようなことがあれば、また、これをきっかけとして少しでもクラシック音楽の世界に興味を持ってくださるようなことがあれば、これほどうれしいことはありません。
報告者:クラスレポート担当 新垣皓生さん(社会学部2年次生)