学生さんへ | 京都では2007年の9月から新しい景観条例が施行されました。条例議決前後の、メディア上での景観をめぐる討論も記憶に新しい方は多いと思います。このプロジェクトでは再び身近になった「景観」を「ある時代、ある社会の価値観を視覚的に、ある領域で体現する総体である」との前提に立ち、文化的景観を考え、その成り立ちや意味、私たちの暮らしとの今日的なかかわり、その保全や活用について考える機会を共有したいと考えます。歴史の蓄積、知識や教養としての文化、あるいは消費財としての文化、広く深く生活のリアリティに結びついた文化まで、文化の捉え方が豊かであるほどに、景観の文化性も奥行きを持って語ることが出来ることでしょう。観光資源や文化財的価値、個々人のデザインの嗜好を超えた社会的な対象として景観を捉えて論じることを目指したいと考えます。
景観に人々の共通の価値観が現れ、美意識やデザインの歴史的な淘汰と蓄積があれば、景観を固有の社会的な作品として堪能することができると考えます。この点から、歴史的、文化的な固有の景観が造られてきたプロセスを知ることも可能と思われますし、その延長線上に立てば、特定の景観がもつ現状の問題点や、それを改善すべき提案も行うことができるでしょう。個別のフィールドに即して、文化的な景観の把握とその現状への認識、課題点の発掘、よりよくするための提案、その実現のための実行手段の提案までをこのプロジェクト科目で取組みたいと考えます。ここで景観を作るため、あるいは保全するためには何を作り、何を守るのか、基本的な問いかけが生まれるのだろうと考えます。
現実的な景観づくりや保全に向かう際には、多様な事業制度、関連法規、基準に学ぶ必要があります。さらに指定や規制、損失補填など、従来の行政的手段だけでは分け入ることの出来ない無数の私有財産のストックを社会的に評価することも、文化的景観を守り創るための出発点であると思われます。極めて具体的で、個別の課題に富み、その多くに待ったなしの状況がある、このストックにいかに働きかけることが出来るのか、京都では実践的なまちづくりに取組む各種の市民活動がありますし、現場でのナマの取り組みを学び応用していただきたいと願います。 |
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